2023年3月号 | Monthly sati! March 2023 |
今月の内容 |
【お知らせ】
※近刊される地橋先生の新しい単行本が現在最終的な段階に入っておりますので巻頭ダンマトークは少しの間お休みさせていただきます。
『月刊サティ!』は、地橋先生の指導のもとに、広く、客観的視点の涵養を目指しています。 |
~ 今月のダンマ写真 ~ |
『脳内映画館からの脱出(New New Chinema Paradise)』(5) |
やっぱり全然わかってなかったんだ、と受講してよく分かった。というか、今まで、本気でやろうとしてなかったんだ、ということが分かった。 |
地橋先生提供 |
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『段階的に進めるブッダの修行法』(4) |
榎本憲男著『インフォでミック 巡査長真行寺弘道』(中央公論新社 2020年) 『コールドウォー DASPA 吉良大介』(小学館 2021年) |
ここに挙げた榎本憲男さんのミステリー小説は、「コロナ2019」を背景に「自由とは何か」をテーマに描かれています。 2020年の春、「コロナ2019」が世界規模の感染の様相を呈するようになりました。 日本でも、緊急事態宣言により、人々には外出自粛を求められ、レストランなどの人が密集する店などは営業自粛を求められたことは、私たちの記憶に新しいでしょう。 このミステリーは、この時期に発生した事件を題材にしています。 営業自粛の波は、芸能界にも押し寄せ、コンサートの中止を余儀なくされたアーティストも少なくありませんでした。 そのような時に、伝説的なミュージシャン・浅倉マリがテレビに出演し、「人は死ぬときは死ぬのよ」と芸能活動の自粛要請をはねのける発言をし、物議を醸し出します。浅倉マリは、さらに、今や伝説となったバンドとの共演による大規模なコンサートをもくろみ、世間の非難の声にも動じる様子を見せません。 巡査長である真行寺弘道は、そんな浅倉マリの姿勢に共感を示しつつも、警察官である立場から浅倉にコンサートを止めるように説得を命じられます。 人々に自粛をうながす体制側の人間として登場するのは、警察官僚である吉良大介。 果たして、コンサートは開催されるのか? それによって、感染爆発は起こるのか? あるいは、事前に権力の力でコンサートの開催を取り止めさせる方向に向かうのか? 小説のタイトル「インフォデミック」とは、「情報(information)」と、感染症を意味する「エピデミック(epidemic)」を組み合わせた造語です。 このタイトルからは、「コロナ2019」は、私たちに、真実の情報と嘘の情報の区分けはどのようにしてできるのか、その境界線は本当にあるのかという問いを突きつけているように、私には感じられました。まるで、「コロナ2019」のウイルスと情報は同じものであるかのごとく。 真行寺弘道の方は、警察官でありながら体制に縛られることを嫌い、個人的な自由を尊重するリベラリストとして描かれ、かたや吉良大介の方は、国家あっての個人という官僚体質の保守的な人物像として設定されています。 性格が対照的なこの二人が、コロナ禍で自分なりの信念を貫き、務めを果たそうとする。個人の幸せ、国としての幸せの実現を目指すという目的は同じながら、お互いの考え方の違いによって、方向性にズレが生じていく。 吉良大介は、個人の自由というものは、まずは国家によって安全を保障されている中でしかあり得ないという論理。だから、そのためには、国家によるプライバシーの統制は必要悪として受け入れなければならないと考えている。 一方、真行寺弘道は、それでは、飼い慣らされた家畜状態の自由しか得られないのではないかと考える。 私には、二人の信念のズレは、国家があって個人があるとするか、個人があって国家があるという違いのように感じられました。ようするに、どちらも一緒に達成することはできないから、優先順位を変えて目的を達成する方法というか。だから、基本となる二重の円の構造は同じなのです。 でも、思考の中身のズレは次第に大きくなり、埋めることのできないギャップとなっていく。それが、「コロナ2019」の象徴であるかのように。 この構造は、ひょっとしたら、ヴィパッサナー瞑想にも通じるかもしれません。 現実をより良く生きる手段として思考は必要不可欠であるにもかかわらず、思考の壁に阻まれてありのままの事実が見えなくなっているという。 でも、無意識では思考による妄想が、自己中心的な誤解を発生させ、自分の人生を苦しくさせている原因だとわかっているから、サティの瞑想に一縷の望みを託して修行するしかない情況。 だけど、いくら思考を止めようとしても、絶え間なく襲ってくる妄想に巻き込まれて、思うように修行が進まないというような。私のように集中力のない者は、そういう葛藤を早々と諦めて、思考の奴隷となるしかないのですが。 榎本憲男さんのミステリーは、時事問題を軸にして展開するという特徴があるようです。今回のようにウイルスだったり、経済やインターネットやコンピューター関連の問題だったり、人種問題やLGBTの問題だったり、また宗教(神)の本質について言及されていたり、その時々で様々です。そういう社会問題については、人一倍疎い私には、榎本さんのミステリーを読むことは、現実の社会で起きている問題を謎解きと絡めて教えてもらえる一石二鳥のミステリーとも言えます。 『コールドウォー DASPA 吉良大介』では、免疫システムについても、明快に説明されていて、大変参考になりました。 専門家が書いた本は、難しくて最初からスルーするしかない私にとって、榎本憲男さんのミステリーは、そういう意味で、とてもありがたくてわかりやすい社会や科学の教科書とも言えるのです。 ミステリーの展開も文句なしに面白いし、エロ・グロな表現なしにストーリーだけで勝負されているところも非常に好感が持てます。 ちなみに、榎本さんのミステリー12冊をすべて購入しました。これからも、時間のある時に、少しずつ読んで、楽しませていただきたいなと思っています。(K.U.) |
文化を散歩してみよう |
第3回:韓国語に触れてみたら
はじめに |
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